2016年12月26日(月)
主張
「給付型奨学金」
こんな中身では納得できない
安倍晋三政権が低所得世帯の大学生などに対する返済不要の「給付型奨学金」の導入を正式に決めました。返す必要のない奨学金は、世界でも異常な日本の高学費に苦しむ学生、父母、関係者らが強く求めてきたものです。しかし、2017年度から始めようとする仕組みは、対象を厳しく限定するなどあまりにも規模が小さすぎるため、落胆の声が上がっています。「貸与型」しかなかった日本の奨学金で初めて「給付型」が国の制度としてスタートする機会にふさわしく、多くの学生・国民の願いに応える中身へ抜本的に拡充させることが求められます。
圧倒的多数は手が届かず
今回導入される「給付型奨学金」は、住民税非課税世帯などのうち、1学年2万人に、国公立か私立か、自宅通学か自宅外通学かによって月2万〜4万円を給付するというものです。17年度は、私立の自宅外生など約2800人から先行実施し、2万人については18年度から始めるとしています。
関係者をがっかりさせているのは、対象者が極めて限られていることです。現在、国の制度である日本学生支援機構の奨学金を利用しているのは利子・無利子合わせて約130万人にのぼり、多くが返済に苦しんでいます。いまの計画では、返済不要の奨学金を必要とする圧倒的多数の学生の手が届かないことは明らかです。
政府が繰り返してきた“経済的事情で進学を断念せざるを得ない者を後押しする”との説明に照らしても、2万人は少なすぎます。文部科学省は、住民税非課税や生活保護の世帯、児童養護施設などの子どもの人数を1学年で15・9万人と計算し、うち6・1万人程度が大学などへ進学すると推計していました。それと比べても対象は3分の1以下にしかなりません。経済的にきわめて厳しい家庭の子どもたちの切実な声にまともにこたえきれない仕組みでは、導入の意味すら問われる事態です。
対象者の選考方法にも疑問の声が上がります。文科省は、全国約5000の高校に1人以上を割り振り、高校側は(1)学習成績(2)部活など課外活動の成果―などを基準に選ぶとしています。しかし、経済的困難を抱える家庭の子どもは塾に通えないなどの条件から、学習や部活の成績がいいとは限りません。給付が認められても、途中で成績が悪いと判断されれば打ち切られ、返還も求められるという厳しさです。限られた財源(最大年200億円強)しか確保せず、その枠内で条件をひたすら狭めるばかりでは、若者の進学の夢をかなえ、支えることはできません。
日本共産党は70万人(現在の奨学生の約半数)に月3万円の給付奨学金をまずつくることを提案しています。これは学生全体の2割強で、世界各国で行われているのと同規模です。必要な予算は年約2500億円で、在日米軍関係経費約3900億円を下回る金額です。政治の姿勢を変えれば、給付奨学金へ抜本的拡充は可能です。
声上げれば制度変わる
返済不要の奨学金を拒んできた政府の姿勢を動かし、「給付型」に一歩踏み出させたことは、国民世論と運動の力です。本物の給付奨学金の実現、高すぎる学費引き下げなど、安心して学べる高等教育の条件整備へ向け、さらに力を合わせることが求められます。