2016年12月27日(火)
賃金半額以下の転籍 いやなら遠隔地配転か退職
ソニーが迫る冷酷な選択
仙台テクノロジーセンター
ソニーが、仙台テクノロジーセンター(仙台TEC、宮城県多賀城市)で、賃下げを伴う子会社転籍か、遠隔地配転か退職かの選択を迫るリストラを提案しています。ソニー労働組合仙台支部(電機連合加盟)は、労働者の生活と地域経済を破壊し、技術を流出させるリストラをやめるよう団体交渉を会社に申し入れています。(田代正則)
労組反撃「生活と技術守れ」
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ソニー仙台TECには現在、磁気テープや光学メディアなどデータ記録装置を扱う事業部門を分社化(ソニー資本100%)した「ソニーストレージメディア・アンド・デバイス」(SSMD)があり、ソニー労組の推計では約350人がソニー本体からの出向扱いで働いています。
月25万円も減少
リストラ案は、このSSMDを研究開発や企画などを行う事業会社と、製造会社に分割し、ソニー社員のうち280人を、賃下げを伴って製造会社に転籍させようというものです。転籍を拒否したら遠隔地配転か早期退職に応じるよう迫っています。
SSMDの事業所は東京や栃木などにも存在し同様の会社分割を行います。宮城県登米(とめ)市のSSMD豊里サイトは閉鎖しようとしています。
ソニーは事業部門ごとに分社化し、SSMDでは子会社に雇用された社員、派遣社員も存在し、雇用形態の違いで処遇格差をつくってきました。正社員の子会社転籍で低い処遇に合わせようという計画です。
2015年にも降格・賃下げ自由の賃金制度が導入され、ある熟練労働者は、月の基本給47万5000円から34万5000円へ段階的引き下げが実施中です。転籍となれば、さらに22万5000円になるとソニー労組仙台支部は指摘します。激変緩和措置が取られますが、実に月25万円もの賃下げです。
ものづくり破壊
仙台TECは、ソニーの事業所のなかでも、研究開発から製造までを一貫して行う数少ない工場です。労働者が研究開発と製造の双方向に異動するなど一体となって品質を支えていました。会社分割は、ソニーの高品質なものづくりを壊しかねないと懸念の声があがっています。
会社は来年1月から転籍の同意を取ろうとしており、すでに上司から意向を聞かれたという労働者もいます。会社から従業員にあてたメッセージでは「新たな市場機会が存在する」と、今後、利益拡大が見込めることを認めています。
技術守った労組の闘争
高品質製品は研究開発と製造一体でこそ
処遇統一は底上げで
10月17日、ソニー仙台TECの労働者にあてた会社メッセージは、リストラを通知しながら、明るい経営見通しも語りました。「デジタルデータが爆発的な勢いで増大する中、それをストレージ(保存)する需要は確実に拡大します」「私たちが持つテープ、オプティカル、メモリーそれぞれの優位性が認識されてきて(いる)」
労働者から「明るい未来があるのなら、賃下げの必要はないじゃないか」と怒りの声が出ています。
世界市場3社で
たとえば、仙台TECで製造している業務用磁気テープは、1巻でブルーレイディスク(BD)数千枚に相当する大容量磁気テープが研究開発されるようになり、再注目を集めています。
家庭用の音楽再生や録画などの分野は、CD、DVD、BDやハードディスクなどが普及したため、多くのメーカーが磁気テープから撤退しました。このため、業務用磁気テープは、技術を保持した日本企業3社が世界の市場をほぼ独占しています。
ソニー仙台TECに磁気テープの技術が残った大きな要因のひとつに、ソニー労組仙台支部のリストラ反対闘争がありました。
大規模リストラ
ソニーは大規模リストラを繰り返し、平井一夫社長が就任してからの2012年3月期〜16年3月期の5年だけでも、グループで16万2700人から、12万5300人まで人員削減してきました。
仙台TECでは、録音用カセットテープや録画テープで一世を風靡(ふうび)した「ベータマックス」以来の熟練技術者を「追い出し部屋」に入れ、個人面談を繰り返すなどの退職強要を行いました。ソニー労組のたたかいで、14年に仙台TECの「追い出し部屋」を消滅させ、技術者を職場に戻しました。
佐藤美和子さんは「追い出し部屋」から復帰。研究開発に長年従事した経験を生かし、磁気テープの最新技術が投入され、詳細は口外禁止となっている製造部門で働いています。
研究開発から製造に移った佐藤さんは、今回の子会社転籍のターゲットになります。「会社は、製造部門は低賃金でいいと軽視しているのでしょうか。誰でも簡単に作業できるものではありません」と指摘します。
ソニー労組仙台支部の松田隆明委員長は、「実験で成功しても、製造でうまくいくとは限らない。研究開発と製造を分割するのは、ものづくりの現場を理解しない経営方針です」と批判します。
仙台TECでは、製造で熟練した労働者が、研究開発の試作品づくりを担当するなど、一体となって品質を高めてきました。
資材調達などを担当する54歳の男性も、子会社転籍の対象です。「研究開発の資材も、製造の資材も、私の部署が調達しています。なぜ、事業を切り分けて、転籍で賃下げにするのか」と憤ります。
ソニー広報は本紙の問い合わせに対し、「社員の転籍は、統一された処遇によってチームとして一体感ある運営をするためで、人員削減のためではない」と回答。転籍を拒否した場合の対応については「詳細は控えたい」としました。
分断し不公平感
ソニー労組仙台支部は、会社側の主張する「処遇を統一して一体感を出す」というリストラの口実に対し、力を合わせて働いている労働者を分断して不公平感を高めることになると反論。子会社社員などの処遇底上げこそ行うべきだと主張しています。
ソニー労組仙台支部は、ソニーの内部留保がこの1年で4120億円積み増しされ、平井社長の役員報酬が就任当初(12年3月期)の約1億5460万円から、16年3月期には7億9420万円まで5倍以上に増えていると指摘。平井社長の報酬の7割で、今回の賃金減額をしなくてもいいと訴えています。
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