2017年1月3日(火)
05年福知山線事故 運転士の証言入手
“余裕ない”不安克明に
「日勤教育」は「みせしめ」
ダイヤ「しんどい」「重圧」 自動停止つけておけば…
2005年4月のJR福知山線脱線事故で、聞き取り調査に応じたJR西日本の運転士の証言を記録した手書きノートの内容が2日までに、情報公開によって明らかになりました。証言では、事故が起きた急カーブ直前まで高速での走行をせざるをえない余裕のないダイヤへの不満が語られていました。(矢野昌弘)
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運転士らの証言は、国土交通省の事故調査委員会の聞き取りに同席した近畿運輸局の職員の手書きノートに記されていました。同運輸局が本紙の情報公開請求に開示しました。
ヒアリングは事故の10日後から開始。運転士8人の証言が記されています。
事故は05年4月25日午前9時18分ころ、尼崎駅と塚口駅間のカーブで発生しました。上り快速電車が脱線し、沿線のマンションに激突。乗客106人と運転士が死亡、562人が重軽傷を負いました。
急カーブなのに…
現場は、長い直線に続く半径304メートルの急カーブです。調査委員会は、急カーブへの進入方法について詳しく聞いていました。
聞き取りにたいし11年の経験がある運転士は「120(キロ)だして制限70(キロに急減速)のところは事故現場そこだけ」としています。
事故現場が急減速して入る急カーブにもかかわらず、速度超過による脱線を防ぐATS―P(自動列車停止装置の改良型)が設置されていませんでした。事故現場の先の尼崎駅から先にはすでに設置されていました。
他の運転士らも「ATS―Pをつけておけば良かったのではないか。人間のミスは絶対ある」、「設備がないところはマンパワーで補えということだ。それが疑問であった」と批判していました。
ほぼ全員が、電車の遅れを取り戻すため「回復運転はよくする」などと答えています。その方法は「決められた速度(ま)で速度アップ。ブレーキのタイミングを遅らせる」といったものです。
回復運転がしやすい場所として現場直前の「伊丹→塚口あたりがよくする」「30秒回復できる」と話す運転士もいました。
必要な安全対策が無かったにもかかわらず、現場付近が速度オーバーを起こしやすい状況だったことがわかります。ヒューマンエラーが大事故につながる危険が高かったのです。
「余裕欲しい」訴え
回復運転が増えた原因に運転士らは03年12月のダイヤ改正をあげています。
「ダイヤ改正以後しんどいと思った。中山寺(駅が快速)停車駅になってから、今までのやり方では間に合わないと思った」「厳しくなってきた。尼崎駅までに遅れを取り戻すのが大変」と、口々に不満を語っていました。ある運転士は「ダイヤを見直して欲しい。余裕時分をもって欲しい」と訴えていました。
また、このノートではJR西が行っていたミスに対する懲罰的な「日勤教育」に運転士らが「みせしめみたいなもの」などと嫌悪していた様子がうかがわれます。
事故をめぐっては、業務上過失致死傷罪に問われたJR西の歴代3社長が一、二審とも無罪判決となり、上告中です。犠牲者の遺族有志は昨年10月、最高裁判所に要請を行い、慎重な審理を求めています。