2017年5月31日(水)
主張
「共謀罪」参院審議
国内外の異論を無視するな
自民、公明両党と日本維新の会が衆院可決を強行した「共謀罪」法案の参院審議が始まりました。衆院審議を通じ法案の危険性と矛盾が明らかになる中、国民の不安・疑念は広がり、国連の特別報告者からも日本政府に警告が発せられる異例の事態です。ところが安倍晋三首相の参院答弁は本会議でも法務委員会でも、国民の懸念にも国際社会からの警告にも真面目に答えたものではありません。人権にかかわる大問題について内外から続出している疑念を無視し法案審議を推し進める安倍政権の姿勢は、あまりに異常です。
国連報告者の警告を敵視
「内心」を処罰対象にし、憲法が保障する思想・良心の自由の重大な侵害につながる「共謀罪」法案への、国民の不安や疑念は広がり続けています。世論調査では8割近くが、政府の説明は「不十分」と答え、今国会で成立させるべきでないという声が多数です。これらの異論に逆らって、衆院で数の力で可決を押し切った安倍政権と与党、維新の姿勢は重大です。
しかも、衆院審議の最終段階では、新たな重大問題が浮上しました。国連の人権理事会が任命した、プライバシー権に関する特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が、「共謀罪」法案について「広範な適用範囲によって、プライバシーに関する権利と表現の自由への過度の制限につながる可能性がある」と警告を発し、法案を成立させることは正当化できないとする書簡を安倍首相に出したことです。この書簡は、法案にある「組織的犯罪集団」や「準備行為」などの定義があいまいなこと、国民のプライバシーを十分保護する仕組みがないことなどを指摘し、説明や回答を求めるものでしたが、菅義偉官房長官らは「不適切なもの」と反発するばかりで、真摯(しんし)に受け止めようとしていません。
国連の国際組織犯罪防止条約(TOC条約)締結に必要といって、「共謀罪」法案を推進しておきながら、国連の人権にたずさわる担当者から異論が出されると、それには一切耳を貸そうとしないで敵視する―独善的でご都合主義の安倍政権の態度は通用しません。
そもそも「共謀罪」がないとTOC条約が締結できないという安倍政権の主張には、国際的にも疑義が寄せられています。同条約の締結手続きに関する国連「立法ガイド」を起草したニコス・パッサス教授は「東京オリンピックのようなイベントの開催を脅かすようなテロなどの犯罪に対して、現在の法体系で対応できないものは見当たらない」と述べています。「共謀罪」がなくてもTOC条約締結は可能なことは明らかです。
監視社会を阻止するため
参院審議では、国連特別報告者らを参考人で招くことや公聴会の開催など、法案の問題点の徹底的な審議が不可欠です。野党の質問にまともに答えられず、無責任な答弁を繰り返す金田勝年法相の資質も改めて問われます。
安倍政権は6月18日の国会会期末までの「共謀罪」法の成立をめざすとしています。多数の力を振りかざした衆院段階での審議のような乱暴な委員会運営をすることは、絶対に許されません。
戦争する国づくりと一体の「国民監視社会」への道を阻止するため、「共謀罪」廃案の世論と運動を広げることがいよいよ急務です。