2017年12月25日(月)
気候変動観測衛星「しきさい」
CO2削減交渉にも影響
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が23日に打ち上げた、気候変動観測衛星「しきさい」。観測データが充実することで気温上昇の予測精度が向上し、地球温暖化対策の国際交渉に役立つことが期待されます。
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2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」は、世界の平均気温の上昇幅を産業革命前に比べ2度未満に抑える目標を掲げました。しかし、日米欧などの研究者が気候モデルを作り、スーパーコンピューターで進める今世紀末の気温予測は2度程度の幅があり、基盤となる観測データの充実が求められています。
海洋研究開発機構の立入郁(たちいり・かおる)主任研究員は「気候モデルのばらつきが大きいと、二酸化炭素(CO2)をどれぐらい排出できるかという推定値にもばらつきが出てしまい、国際交渉の議論の前提が弱くなる」と指摘。衛星「しきさい」の観測データで予測精度が向上すれば、「厳しい削減目標での合意形成に役立つのではないか」と話しました。
CO2やメタンなどの濃度分布を観測する衛星「いぶき」は09年に打ち上げられました。ただ、気候モデルの改良にはCO2を吸収する森林、農地などの植物分布や、太陽光を反射・遮断する雲、大気中のちり、すす、化学物質など微粒子の分布データも必要となります。
衛星による地表観測は雲や微粒子越しに行っており、「しきさい」で詳細なデータが得られれば、植物分布などのデータもより正確になります。千葉大学の本多嘉明准教授によると、「しきさい」は直下だけでなく、斜め前方や後方も観測して農作物や樹木の高さを捉え、立体的な総量を把握できます。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書は、CO2などの排出量シナリオを4通り設定。最も削減した場合は今世紀末の平均気温が20世紀末に比べ0・3〜1・7度上昇にとどまりますが、逆に最も削減できなかった場合は2・6〜4・8度上昇すると予測されました。
各シナリオの2度程度の幅は、使った気候モデルによる違いで、立入さんは「『しきさい』のデータで改良した気候モデルの計算結果は将来の評価報告書に反映される」と話しています。