2024年11月14日(木)
主張
大学教員の雇い止め
政治の責任で無期転換を促せ
羽衣国際大学(堺市)の元講師の女性が違法に雇い止めされたとして地位確認を求めた訴訟で、最高裁第1小法廷は10月31日、雇い止めは無効と判断した大阪高裁判決を破棄し、大阪高裁に差し戻す不当判決を言い渡しました。
労働契約法18条は、非正規雇用の安定をはかるために、期限付きの契約で働く期間が通算5年を超えると期限がない雇用への転換を求めることができる「無期転換ルール」を定めています。しかし、大学教員任期法(任期法)4条が定める「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職」などに該当する任期付き教員については、無期転換ルールの適用までの期間を10年に延ばす特例を認めています。
女性は、同大学で専任講師として通算6年にわたって有期契約で勤務したので、無期転換を申し入れました。しかし、大学側は任期法にもとづく「10年特例」に該当するとして拒否し、雇い止めしました。
■乱用の弊害あらわ
昨年1月の大阪高裁判決は「10年特例」に該当しないとして、女性の地位確認と、賃金の支払い請求を認めました。ところが、最高裁判決は、任期法の具体的な運用については大学の判断を尊重すべきだとして、任期法4条について「殊更(ことさら)厳格に解するのは相当でない」としました。「教員の流動性を高める」ことが望ましいとして「10年特例」に該当すると判断しました。
しかし大学の現場では、任期制が乱用され弊害があらわになった反省から、任期法の厳格な運用が広がっています。全員任期制を導入した東京都立大学(旧首都大学東京)や横浜市立大学では優秀な研究者が流出し、労使間の紛争も頻発。大学の評価を落としました。大学は労働組合の要請を受け入れ、全員任期制を廃止しています。
よりどころは任期法の厳格な運用です。厚労省は任期法にもとづいて任期を定める場合は、規則を定め、労働者の同意を得るなど任期法4条の厳格な運用を手引などで指導しています。
今回の事例では、大学側から原告に対して契約時に任期法4条にもとづく説明はなく、契約更新の際にも「10年特例」の対象となるとの説明もありませんでした。任期法にもとづく契約でないことは明らかです。
にもかかわらず、最高裁が任期法4条の運用について「殊更厳格に解するのは相当でない」と判断したことは、大学での任期制の乱用に拍車をかけ、現場に混乱をもたらしかねません。
■研究力低下を招く
判決は「教員の流動性を高める」ことが望ましいとしました。しかし日本学術会議は、流動性を高めることを目的にした任期制導入は「ほとんど失敗した」と指摘しています(2019年10月31日提言)。任期制の導入は雇用を不安定にしただけで、博士課程進学者を減少させています。
大学教員など研究職の無期転換をめぐる訴訟は相次いでいます。大学や公的研究機関が無期転換を拒む背景には、政府による人件費を含む基盤的経費の削減があります。研究職の雇用の不安定化が研究力低下を招いています。政治の責任で無期転換を促すことこそ求められています。