2024年11月20日(水)
主張
米軍家族撤収論文
沖縄を再び「捨て石」にするな
「ロケット弾が基地の住宅に撃ち込まれた。学校は地獄のように燃え、周囲は焼け焦げた子どもたちの死体で覆われていた。(中国の)人民解放軍のジェット機が那覇空港の上空で爆音をとどろかせて爆弾を投下した。家族がいっぱい乗った民間航空機が地上に数機残っていたが、ばらばらに破壊された」
現役の米海兵隊幹部が、海兵隊員の家族を沖縄から米本国に撤収させるよう提言した論文の一節です。台湾をめぐり米国と中国との間で戦争が起こった場合、米軍基地が集中し、真っ先に攻撃対象となる沖縄での予想される惨状を描写しています。米軍内部にも、米中戦争になれば沖縄が悲惨な戦場になるとの認識が広がっていることを示唆しています。
■「大虐殺」と表現
執筆したのは当時、沖縄の第3海兵遠征軍司令部で計画部門の部長を務めていたブライアン・カーグ中佐です。米海軍協会の月刊誌『プロシーディングス』2023年12月号と、米海兵隊協会の月刊誌『マリン・コー・ガゼット』23年9月号にそれぞれ別の同氏の論文が掲載されました。いずれも、海兵隊員の家族を沖縄から引き揚げさせるよう主張しています(前者の論文については本紙15日付既報)。
冒頭の引用は、沖縄が攻撃された場合、そこに住む海兵隊員の家族がどういう事態に巻き込まれるかを示した後者の論文(「家族を第1列島線から脱出させよ」)からのものです。
同論文は、戦争が始まった時の事態を「沖縄大虐殺」と表現し、その後も「数カ月間、(沖縄)島は補給を断たれ、…家族は徐々に餓死したり、治療可能なはずの病気で死んだりする」と描いています。
中国が、台湾有事に介入する米国の能力を弱めるためには、南西諸島など第1列島線にある米軍基地を攻撃の標的にする必要があるとし、そこはいつ戦闘が起きてもおかしくない地域だと強調。海兵隊は、隊員の家族を殺傷地帯に置くという危険を冒していると批判しています。
しかし、沖縄の米軍基地の多くは人口密集地の中にあります。戦争の被害に遭うのは米軍関係者だけではありません。基地周辺の住民など沖縄県民も同じです。しかも、米軍の家族は事前に帰国できても、沖縄県民はできません。
■自衛隊も戦争準備
看過できないのは、同論文が、海兵隊員の家族を帰国させることは中国からすれば戦争準備の合図とみなされると認めつつ、既に「日本の自衛隊も、中国との戦闘の準備を急速に進めている」として、家族撤収の提言を正当化していることです。
日本政府が長射程ミサイルなど敵基地攻撃能力の保有を決め、沖縄をはじめ南西諸島で自衛隊の増強を急ピッチで行っていることが念頭にあるとみられます。
1945年の沖縄戦で沖縄は日本本土防衛のためとして「捨て石」にされました。米国の対中国軍事戦略のために、沖縄が再び「捨て石」にされることは決してあってはなりません。
中国との軍事緊張を加速させる戦争の準備ではなく、緩和するための外交努力こそ求められています。